君の『好き』【完】
「あぁ、行っちゃった.....」
私は3番のバス停に近づいて、時刻表と腕時計を見合わせた。
「30分後かぁ......歩いたら何分ぐらいかかるかな.....」
吉井くんは首を傾げて考えて「20分ぐらいかな」と答えた。
「歩いた方が早いね、私、歩く」
「歩くんじゃ大変だし、道わかんねぇだろ?俺がチャリで乗せていこうか?」
私はリュックから手帳を取り出した。
「いい。自分で歩いて行くから。
道教えて、ここからどうやって行けばいい?」
吉井くんの自転車の後ろに乗らない。私は歩く。
吉井くんは私から手帳を奪って、ペンで行き方を書いてくれた。
「ほら、これでわかるだろ」
手帳を受け取って中を見ると、
とてもわかりやすく曲がり角の建物まで書いてくれていた。
「ありがとう、助かった」
私は手帳を手に走り出した。
「鈴」
走り出した時、吉井くんに呼ばれて振り返った。
「髪すっげー切ったな」
「あぁ、うん」
私は短い髪をつまんだ。
「俺は長いほうが好きだったよ」
吉井くんはくしゃっと目を細めた。
「吉井くんが好きじゃなくてもいいの!
私は海くんに好きになってほしいの!」
あはははっと笑って、私は向きを変えて武道館へと走り出した。