君の『好き』【完】
しばらく眺めていたら、海くんが面と小手と竹刀を持って席から立ち上がり、
横の階段を下りて、1階の試合会場に下りてきた。
見失わないように、海くんを2階からずっと見つめてどこに行くのかを確かめると、
私のちょうど真下で止まって、
壁を背に正座をしてその前に小手と面を、脇に竹刀を置いた。
手ぬぐいで頭を巻いておでこを出すと、いつものかわいい顔ではなく、
きりっとした男らしい顔つきになった。
そして面をつけて小手をはめ、竹刀を持って立ち上がると、
軽くストレッチをして、試合場に近づいた。
背中には赤いタスキ。
頑張って、海くん。
見ていることがバレないように、心の中で応援した。
海くんは1回戦、2回戦と秒殺で勝ち、どんどんコマを進めた。
そして、会場が静まり返り、赤の海くんと対戦相手の白と、
3人の審判が一斉に正面に一礼すると、
決勝戦が始まった。
試合は4分。2本先に取ったほうが優勝。
「はじめ!!」
試合が始まると、海くんは堂々と構え、
普段のかわいい顔から全く想像できないぐらい大きな男らしい声を出し、
ドンと強く踏み込んで竹刀を相手に打ち込んで行った。
「面あり!!」
海くんの面が入り、場内に歓声がわいた。
あと一本取るか、
このまま4分経てば優勝。
対戦相手よりも、海くんの方がずっと細くて小さいのに、
海くんの方が強そうに見えた。
動きが早くて、竹刀が見えない。
中学の頃よりも、もっと強くなって、堂々としている。
頑張って海くん……!あと一本!
時計係がストップウォッチを眺めて、終了時間を告げる旗を握り締めた。
「小手あり!!」
海くんが一本取られたところで、時間となり、
延長戦となった。
海くんが首と肩を回した。
先に一本どちらかが取ったら、そこで試合終了。
「延長、はじめ!!」
ドキドキする。
頑張れ、海くん......頑張れ......!!!
すごい緊張感の中、
ドンとお互い同時に踏み込んで相打ち面.......
「面あり!!勝負あり!!」