君の『好き』【完】
それから一緒にバスに乗り、駅へと向かった。
一番後ろの座席に一緒に座って、ぎゅっと手を繋いだ。
片方の手には海くんからもらった手袋、もう片方は海くんの手。
幸せだと思った。
電車に乗っても、家までの帰り道も、ずっと手を繋いでいた。
私の家の前に着くと、そっと手を離して、
ドキドキしながらリュックの中からマフラーを出した。
袋には入っていない。落っことして汚れてしまったから。
あの日と同じ場所で、同じものを渡すことに、
少し悩んだ。
受け取ってくれなかった時の海くんを思い出して胸が痛い。
私はマフラーをぎゅっと胸に抱えると、海くんを見つめた。
「これね、本当に海くんのことを想いながら編んだの。
ひと目ひと目、全部海くんのことをちゃんと想って編んだ」
「うん」
海くんは少し切なそうに小さく頷いた。
「だってね......けっ、けっ.......」
「ん?」
海くんは不思議そうに首を傾げて私の顔を覗き込んだ。
「けっ、結婚したら......海くんと結婚したら、
私ずっと幸せでいられるな.....なんて想像して、編んでたの」
恥ずかしくなって、マフラーに顔を埋めた。
「マジか......」
ちらっとマフラーから海くんの顔を覗くと、海くんはまた手の甲を口元に当てて、
顔を真っ赤にしていた。
「ごめん、疑って」
私はぶんぶんと大きく首を振ってマフラーを差し出した。
「だから、受け取ってもらえないかな.......」
海くんは、肩から防具袋をドサッと地面に下ろし、その上に竹刀袋を立てかけると、
そっとマフラーを受け取ってくれた。
「ありがとう。大切にする」