君の『好き』【完】
それからその子は、しょっちゅう俺に話しかけてきた。
「何部に入るの?」
いつも休み時間後ろを向いて話しかけてくる。
「剣道部ってあんの?」
その子は両手を合わせて笑った。
「あるよ!だって私剣道部だもん!今日見学に来なよ!」
「あぁ.....うん」
それから剣道部に入り、近所のせいもあって、
自然と一緒に帰るようになった。
一緒に公園で竹刀の素振りをしたり。
一緒にいる時間がだんだんと増えていった。
夜、公園での練習を終え、ベンチに座ると、
「渡瀬くんって、良い名前だね」と突然名前を褒めてきた。
「えっ、俺?
俺は、あんま好きじゃない。
女みたいだし、『うみ』なんて。
どうせなら『海』って書いて『かい』って呼ぶ名前の方が、
男っぽくてよかったよ」
宇崎は「え~~」と首を傾げた。
「それは私だよ。
『すず』なんて。
『鈴』って書いて『りん』って呼ぶ方が、
なんかかわいくない?」
「そうかな......」
俺は『すず』の方が良いと思ったけど、恥ずかしいから言わなかった。
「渡瀬くんは、『うみ』って感じするよ。
なんか、広くて深くて、大きな青い『うみ』って感じ。
私は渡瀬くんの名前好きだなぁ。
ね、『うみくん』って呼んでもいい?」