君の『好き』【完】
放課後
吉井くんが一歩私に近づいたから、
私は下を向いて一歩下がった。
「なんで逃げんだよ」
そんな......
「全然......逃げてなんかないよ」
下を向いたまま答えると、
吉井くんはまた一歩近づいた。
逃げてないって答えたから、もうここから動けないと思った。
顔も上げられない。
だって、近すぎる.......
「風間先輩なら休みだよ」
えっ.......
私が風間先輩を見ていたことを、
吉井くんは知ってたんだ。
「そう......なんだ」
私が風間先輩を見に体育館に来たと、
吉井くんに思われたくなかったけど、
そう思われてしまうのはしかたないか......
少し、吉井くんの言葉にへこんでいたら、
「明日、ちゃんと待ってろよ」
吉井くんの優しい声がして、思わず顔を上げた。
吉井くんはふわふわとした黒髪を、くしゃくしゃっとかいていた。
肩までまくられた袖の下から、
男らしい腕が見えて、目のやり場に困って、
ぐっとまた下を向いた。
「ちゃんと......交番の前で待ってるよ」
そうつぶやいたら、頭を触られる感触がして、
また顔を上げた。