君の『好き』【完】
吉井くんは私の頭に手をのせて、
ぽんぽんと撫でると、優しく微笑んだ。
くりくりの瞳をくしゃっとして笑う笑顔を間近で見て、
胸がきゅんと音を立てた。
「よし、いい子だ」
吉井くんはそう言うと、私の頭から手を離して、
首からかけたタオルを掴んだ。
「じゃあ、明日な。
気をつけて帰れよ」
吉井くんは、くるっと向きを変えて、
体育館の方へと走り出した。
「待って!」
吉井くんの背中を見たら、
寂しい気持ちと、
風間先輩を見に来たんじゃないって、
誤解を解きたい気持ちが一気に押し寄せてきて、
思わず吉井くんを追いかけた……つもりが、
「わっ!」
追いかけたすぐのところで、渡り廊下の段差につまずいて、
ぺしゃんと手をついて転んでしまった。
いったぁ………
ていうか、恥ずかしすぎる……
この場から消えてしまいたい……
そう思った時、
「大丈夫か」
吉井くんの声にぱっと顔を上げると、
目の前に吉井くんがしゃがみこんできて、
私の手を掴んで手の平を見た。
「擦り剥けてんじゃん。
足は?」
「だ、大丈夫だよ…」
ぱっと手を引っ張り返すと、吉井くんは少しムッとした顔をした。
「いいから、見せろって」
ちょっと怒って言われて、
しかたなく足を伸ばして座り直すと、
膝も少し擦り剥けているのが見えた。
「お前、血出てんじゃん!ちょっと待ってろ」
「ちょっ、そんな、たいした怪我じゃ……」
吉井くんは私の言葉も聞かずに、
ダッシュで体育館に戻って行ってしまった。