君の『好き』【完】
4階に着き、エレベーターを降りると、
お兄ちゃんに頼まれたお店が見えた。
「ここ?」
「うん。ちょっと入りにくいでしょ。
ごめんね」
こんなヤンキー臭たっぷりなお店に、
さわやかな吉井くんを誘ってしまい、
ものすごく......罪悪感。
「確かに.......
でもお兄さんのためだろ。行こ」
吉井くんは私の手を掴んで、
店内へと入って行った。
大きな音でガンガンに音楽が流れていて、
薄暗い店内。
「こけんなよ」
吉井くんはそう言って、私の手をぎゅっと握った。
優しいなって、
繋がれた手のぬくもりを感じながら、胸がきゅーっとした。
「パーカーだろ?この辺じゃん?」
立ち止まったところには、
ファスナーがないパーカーと、
前開きのパーカーの2種類が置いてあった。
「どっちがいいのかな.....」
棚の前で迷っていたら、
「鏡あるんで、着てみちゃってくださいね」と、ちょっと怖そうな男の店員さんが、
鏡を指差して、また違うお客さんの所へ行ってしまった。
着てみてって......プレゼントなんだけどな。
「吉井くんだったら、どれがいいと思う?」
「俺?」
「うん」
吉井くんは私から手を離して、パーカーを手に取った。
「俺あんま、こういう系の服は......」
「そ、そうだよね」
私服見たことないけど、
きっと吉井くんはこんな黒地にギラギラした模様のパーカーなんて、
着ないよね。
「かぶるタイプのにしようかな。
確かお兄ちゃん、前が開くやつはいっぱい持ってたから」
吉井くんは、パーカーを棚に戻した。
「サイズは?」
「あ、サイズ聞くの忘れちゃった.....Lかな.....LLかな.....」
吉井くんは、バッグを床に下ろした。
「確か俺、お兄さんとおんなじぐらいの身長だったから、
俺が着てみるよ」