君の『好き』【完】
「愛莉、わかった。今行くから。
ちゃんと待ってろよ。
とにかく、落ち着け、わかったな」
吉井くんはスマホをポケットにしまうと、
下を向いて、髪をくしゃくしゃっとした。
「ごめん、鈴。俺......」
吉井くんはため息をついた。
「あ......こっちこそごめんね。
助かった。ほんと......助かった。
うん。
じゃあ、私もう帰んなきゃ。
お兄ちゃんうるさいし。あはははっ
じゃぁ、ほんとありがとう」
私は、くるっと向きを変えると、ダッシュでエスカレーターの方へと走った。
「うわっ」
腕を掴まれて、転びそうになりながら振り向くと、
吉井くんが私の腕を掴んでいた。
「そんな靴で走ったら、こけるぞ」
そう言って私の手を繋いできた。
どうしてそんな優しくするの?
そっか、吉井くんは優しいんだ。
誰にでも、優しいんだ。
「ありがと。気をつけて帰るから。
もう、優しくしないで......」
私は繋がれた手を離して、
下を向いたまま、歩き出した。
吉井くんはもう、追いかけてこなかった。
もう、これ以上好きになる前に、
諦めなくちゃ。
どんなに好きでも、
どんなに想っても、
愛莉さんには、勝てない。
想いも、時間も、距離も、
なにもかも全てが、
勝てない。
諦めなくちゃ。
諦めなくちゃ。
そう言い聞かせながら、改札を通った。