君の『好き』【完】






「吉井くん......」




吉井くんはゆっくりと歩いてきて、



私の前を通り過ぎる時、ぽんと私の頭に大きな手をのせて、




ボールの元に行き、軽々と片手で拾った。





そして、ダムダムダムと、いとも簡単そうにその場でボールをついた。





「奪えよ」




「えっ、うば.....う?」





吉井くんはボールをつきながら、下を向いて笑った。




「ボール。奪ってみ」




えええーーーー




「できないよ.....そんなの」




吉井くんはドリブルしながら近づいてきた。




「奪えよ、鈴」




真剣な表情で言われて、きゅんとしてしまった。




やっぱり......好き。



吉井くんが......好き。






私は、えいっとボールに手を伸ばしてみた。





「そんなんじゃ、奪えねーよ、あははっ」




吉井くんはゆっくりドリブルしながら、笑い出した。



「だって、わかんないもん!」






吉井くんは、少し私から離れた。







「とにかく、俺んとこ.....来いよ」







また、その言葉に



その真剣な眼差しに、きゅんって.......




だから、吉井くんの元に駆け寄って、



何度も、




何度も、




そのボールに手を伸ばした。




でも、



伸ばしても、


伸ばしても、




吉井くんからボールは奪えなくて、





どんなに、頑張っても、




吉井くんを奪えない自分と重なって......




じんわりと涙が出できてしまった時、



吉井くんがドリブルをやめて、




目の前にボールを差し出してきた。





そっとボールを受け取って、涙がこぼれ落ちそうになりながら、



吉井くんを見上げると、




そのままぎゅっと抱きしめられた。








びっくりして、


力が入らなくて、





ボールがストンと、手から落ちた。








静かな体育館





ボールの弾む音だけが響いた
















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