君の『好き』【完】
私と吉井くんの間に、ボールがなくなったら、
吉井くんはもっとぎゅっと抱きしめてきた。
頬に感じる吉井くんの鼓動
ドキドキしながら、大きな背中に手を回して、
ワイシャツを掴んだ。
どうして抱きしめてくれるんだろう......
どうして......
そう思った時、
体育館の入口の方から話し声が聞こえてきた。
「吉井くん.....誰か来ちゃう.....」
私がそう言うと、吉井くんは抱きしめるのをやめて、
私の手を掴んで、体育館の裏口へと引っ張った。
引っ張られるがままに、そのまま裏口から外に出ると、
私を体育館の壁の前に立たせて、
私の顔の横に、右肘をついた。
話し声が近づくと、吉井くんは左手を私の肩に置いた。
そしてそのまま話し声は遠ざかって、
また、静かな体育館に戻った。
顔を上げることができなかった。
近すぎて、
恥ずかしすぎて......
いつまでも下を向いていたら、
肩にあった吉井くんの手が動いて、
くいっと私の顎を持ち上げた。
すると、
少し首を傾げて私を見下ろしている吉井くんの顔が目の前に見えた。
「鈴?」
吐息がかかるぐらい、間近で名前を呼ばれて、
ドキッとした。
「鈴には、俺が見えているよな......」