君の『好き』【完】
紺色の道着を着た海くんが、剣道場の方から、
胴を両手で抑えながらダッシュしてきた。
私の前に来ると、自分の胴を抱えながら、
下から私の顔を覗き込んできた。
覗き込んできた海くんは、栗色の髪が汗で濡れていて、
面を外したばかりのせいか、
前髪が立っていた。
「いつから泣いてたの?」
前髪が立っているせいか、大きなかわいい目がよく見える。
海くんの瞳は、艶やかで綺麗だと思った。
「さっき......」
「涙、出し切った?」
海くんの優しい眼差し
海くんの優しい言葉
唇を噛み締めて、涙をこらえた。
「泣いていいんだよ。
泣き止むまで、そばにいるから」
もう、我慢できなかった。
両手で口を抑えて、泣いてしまった。
「海くんは、部活戻って。
ごめんね、邪魔して......」
こんなんじゃ、私も愛莉さんと同じだ。
私のわがままで、海くんの部活を邪魔している。
「休憩中だから、大丈夫だよ」
私は、目をこすって涙を消した。
「もう、泣かない、もう大丈夫。
だから、戻って」
私が笑顔を作ると、海くんは悲しげな顔をした。
「俺の前では、無理すんな。
宇崎の性格は俺......よくわかってるから。
もっと、わがままになっていいんだよ」
そんな......
「わがままになんて、なりたくない」
そう言って私が頬を膨らませると、海くんは噴き出して笑った。
「宇崎。
宇崎は今、どうしたい?」