ツンデレくんをくれ!
あたしが何も言えないでいると、隣で志満ちゃんがもごもごと口を動かした。


「あ、あの、じゃあ、その6通りで今から試合してみれば……」


いきなり話を振られて弱々しい口調で話す志満ちゃんに男子が沸いた。


「や、それできないから話し合ってるんやけど」

「え?」

「明日までに決めなきゃならんから」


志満ちゃんの発言がツボにはまったらしい中出が、端っこから志満ちゃんにツッコミながら笑っていた。


あたしは思わず中出を見つめてしまった。


……こいつが笑うとこ初めて見た。


いつも真顔でいるところしか部活で見ないから拍子抜けした。


こいつも笑うんだ。


それも、すごく優しそうに。


中出は見た目はあまり優しそうだとは思わない。どちらかと言えば冷たそうな印象を受ける。基本無愛想で、その表情を崩すことはほとんど見たことがない。


そんな男が、こんなふわっと優しい表情で、目を細めて歯を見せて笑うんだ。


あまりに驚きすぎて、なぜか心臓が大きく鼓動を打ち付けているのを感じる。


と、ときめいた?


あたしが? 面食いのあたしがイケメンじゃない中出にときめいた?


年中無休恋をしているようなあたしが珍しく恋してないから変になっちゃった?


頭おかしくなっちゃったの?


それからは五人の話はほとんど聞いていなかった。


気付けば解散になっていて、志満ちゃんに結果を教えてもらったくらいだ。


おかしい。ほんとおかしい。


ほんの一瞬だったのに、中出の笑顔が頭から離れなくなった。


< 11 / 76 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop