ツンデレくんをくれ!
連れて来られたのは傍の男子の部室だった。


ここは本来用具庫になっていて、テニスボールやシングルスポールを保管してあるけど、男子の着替えの場所と兼用になっている。


女子もボールやシングルスポールをコートに持って行くために一年生の時はよく出入りしていたから別に目新しさも何もないけど。


誰も残っていなかった。


「みんな帰っちゃったの?」


あたしの問い掛けに中出は答えなかった。


傍の椅子に腰掛けてこちらを見ている。


や、答えろよそれくらい。


あたしは中出の顔を初めて間近でまじまじと見つめた。


中出は、悪いけど十人中十人がイケメンではないと答えるような顔だ。整っているとは言い難く、普段も決して目立つ存在ではない。男子の輪の中に入るけど、ぼそぼそと低い声で話すし、傍から見たらその中の一員としか認識されないような男だ。


性格も悪いわけではないだろうけど、あたしが一回話しかけたらなんで話しかけるんだと言わんばかりの冷たい目で返されたから、それ以来中出のことは遠くからしか見ていない。


何となく近づきがたいオーラがあるのだ。


女子ともほぼ関わりもない上に、こちらからの声にあまり反応しない。
(あたしに至ってはさっきのように完全に無視である)


どんだけ嫌われてるんだ、あたし。


好きな人に嫌われるって相当堪えるんだぞ。


ああ、既に泣きそう。


「……うちの学部にさ」


そんなあたしの気持ちをよそに、中出がぼそぼそと話し出した。


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