ツンデレくんをくれ!
嘘の関係とはいえ、カップルを演じるにはまず形からということで、毎日連絡を一通でも二通でもいいから取ることを最初に決めた。


今まで全く話さなかった二人がいきなり連絡を取り合うことは、かなりの違和感と困難を伴った。


LINEでは一言返すだけで終わってしまうし、電話をしても会話が全く成り立たない。


会話といっても、中出に何を話せばいいのかわからない。


友達となら普通に弾む会話が、中出としようとすると途端にわからなくなる。


会話って、どうやってするんだっけ?


そもそも、あたし達の共通事項ってテニスしかないわけだし。


あたしは三日でその状況に我慢できなくなって、付き合い始めてから最初の土曜日に、かなりの勇気を振り絞って、男子と話している中出を連れ出して二人でご飯を食べながら今後のことを話し合った。


あたしの向かい側でスマホをいじっている中出の手からスマホを奪ってとりあえず説教。


「人と話してるときは必要以上にスマホを手に取るな!」


会話を大事にする家庭で育ったあたしは、中出の姿に怒った。


とはいえ、あたしもたまにスマホをいじる時があるから、自分への戒めも含めて言ったんだけど。


「いざ好きな子ができて彼女にしたとしても、そんなんじゃいくら好きでも嫌われちゃうよ」

「……お節介」

「心配してるの。付き合い始めは特に会話しなきゃ」


そんなんじゃ、お互いのことをいつまで経っても知れないじゃん。


付き合うって、そういうことでしょ?


あたしがそう言うと、中出は頷いてスマホをジーンズのポケットに閉まった。


その中出の好きな子がいつかあたしになればいいと思ったのは口にしなかったけど。


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