ツンデレくんをくれ!
「で、さっきの話なんだけど」


カレードリアが三分の一まで減って、あたしはようやく口を開いた。


「連絡取り合うって言ってもさ、あたし達今まで全然話してなかったじゃん」

「うん」

「そんな人達がいきなりLINEとか電話とかってけっこう難しい話じゃん。だからさ、あたしからの提案なんだけど」

「うん」

「できる限り直接話そうよ。部活中じゃなくても、その前後とか」

「うーん」

「たぶん、直接話すことが一番の近道だと思うよ。別に話してたって、誰もあたし達が付き合ってるふりしてるなんて思わないよ」

「まあ、確かに」


中出がアイスを口に入れて、その舌が自身の唇を舐めとる姿に、あたしは思わず息を飲んだ。


体の奥に熱が溜まるのを感じた。


やばい……今の、すごく色っぽい。


中出のくせに。


ふと中出が顔を上げて目が合って、あたしは慌てて目を逸らしてカレードリアを大口でぱくついた。


くっそう、中出にしてやられた気分……。


「別に、いいと思うよ、俺は」

「……自分のことだろーが」

「わかったよ。努力はする」

「ばれたくないって言ったのは中出なんだからね」


あたし達のこの関係は、テニス部の誰にも内緒だ。


どうせ嘘の関係だ。工学部ならともかく、部内で噂になっていざ別れたら部内の空気は最悪だ。


小杉くんに嫌われたあたしもよくわかっていることだった。


まあ、あたし達がいきなり話すようになったところを目撃されても、部内なら仲良くなったんだと解釈してくれるから、余計なことは言わないことに決めたのだ。


それでもばれるのは時間の問題だとは思ったけど。


「それと、LINEは少しずつやってこう。実際の会話が成り立たないとあまりできないし」

「ん」

「……頼んだのはそっちなんだからな」

「わかったって。ちゃんとやるって」


苦笑いを浮かべてあたしを見た。


中出はあまりあたしを見ない。ほとんど俯いている。


だから、顔を上げて目が合うとなんだか嬉しくなる。


二人が食べ終わると、中出が立ち上がった。


「俺、そろそろ行く」

「バイト?」

「ん」

「あたしも出るよ」


そうして、あたし達の関係は本格的にスタートした。


……はず、だけど。


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