ツンデレくんをくれ!
「奈子さん、ありがとう」

「や、だから、あたしは何もしてないし。それに勝手に引き受けたのはあたしなんだし」

「奈子さんて、意外にいい人やね」

「意外にって何よ。あたしはバリバリいい人です」

「嘘や。いかにも腹黒ですみたいな眼鏡かけてるくせに」

「赤縁眼鏡のどこが腹黒に見えんのよ。眼鏡に謝れ。中出こそ、潰れたキツネが化けたもぐらみたいな顔してるくせに」

「おい、それ、完全に悪口やん」


じとーっと睨みつけたら、中出が吹き出した。


「ほんと、あほらしっ……」


くくっと笑い声を漏らしながら、中出が笑った。


「……中出?」


何がそんなに面白いんだ?


めんどくさいものから解放されて、中出なりにハイになっているのか。


そりゃあ、中出が笑っていてくれるのは嬉しい。中出は無愛想なイメージが強いけど、笑ったらとても素敵で可愛い奴だ。そっちの方がずっといい。


でも、あたしは、笑えなかった。


解放された。そう思ったら、悲しくなった。


矛盾しているけど、ずっと面倒ごとが続けばよかったのに。あたしがもっと傍にいれる状況になればよかったのに。


なんて、あたしは最低な女なんだ。


好きな人には笑ってほしい。でも、それよりもあたしが近くにいたい。


あたしが中出の笑う理由になりたい。


そう思ったら、とても笑えない。


好きな人が笑っていることは嬉しいことなのに。一緒に笑いたいのに。


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