凪とスウェル
すずは、あの日に帰りたいと言った。


無人島で過ごした、あの日に戻りたいと。


俺も同じ思いだった。


あの幸せな頃に戻れたら、どんなにいいだろうかと。


だけど、それは不可能だから。


ただ、すずを抱きしめた。


すずの腕に力が入るたび、俺はそれ以上に力を込めた。


東京へ引っ越す前日に、初めてすずを抱きしめたけど。


約4年ぶりに抱きしめるすずは、なんだか小さくて、随分か弱く思えた。


そんなすずを放っておけるはずもなく。


俺は友達に戻ろうと言った。


恋人になる以前の、仲の良かったあの頃の俺達になろうって。


すずを元気付けたかった。


そうすることが、一番の策だと思ったんだ。


だけどこれが、余計にすずを傷つけることになるなんて。


この時の俺は全くわかっていなかったんだ…。
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