凪とスウェル
「すずの性格からして、こんな中途半端な状態は耐えられないだろうな…。

友達思いだし、千春さんを裏切るようなマネは絶対出来ないだろう」


隆治の言葉に、あたしはうんと頷いた。


「千春さんの家のリビングに行くとさ。

千春さんが陸上選手だった頃のトロフィーやメダル、賞状が死ぬほど飾ってあるんだ。

それを見るたびにさ、俺が奪ったんだよなって。

胸が痛んでた…」


「隆治…」


「オペの次の日に、悲しそうに病院で泣いていた千春さんの姿が、ずっと脳裏に焼き付いてる…。

今でこそ奥さんも千春さんも、俺を受け入れてくれてるけど。

最初はすごく、憎い相手だったはずなんだ…。

こんな俺なのにさ、今じゃ頼りにしてくれて。

かえって必要としてくれて…。

そんな人達を裏切っていいのか…。

そう思うと、ずっと答えが出ないんだ…」


隆治にそう言われると、あたしは何を話していいかわからなくなった。


自分の家に帰りたくなかった隆治に、居場所や仕事まで与えてくれたご主人。


その人達に、あたしとの関係を言うって。


かなり勇気のいることだよね…。
< 565 / 733 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop