凪とスウェル
待ち合わせは、千春さんの家の前。


お洒落な通りにあるわけでもない、住宅街の中にポツンとあるパン屋さん。


派手さはないけれど、昔からのお客さんの多い良心的なお店だと思う。


店舗の前で立って待っていると、自宅のドアから千春さんが顔を出した。


「長谷川君、お待たせ」


「おはようございます」


今日の千春さんはいつものパンツスタイルではなく、スカートを履いていた。


髪も可愛くアレンジしてあって。


俺と二人きりで出かけるというだけで、こんなにも女の子になるんだなと。


ちょっぴり胸が痛かった。


「どこに行きましょうか?千春さんの行きたいところへ行きますよ」


「え~?そう言われると、迷っちゃうな。

長谷川君となら、どこでも嬉しいけど…。

あっ、そうだ。

一箇所どうしても行きたいところがあるの。

そこでもいいかな?」


「もちろんいいですよ」


二人で出かけるのは、これが最初で最後だから。


せめて彼女の好きなところへ行こうと、そう思っていた。
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