凪とスウェル
「もう二度とハードルは跳べないけれど。

それと引き換えに、私は静かな安らぎを手に入れた。

心から好きになれる相手を、見つけることが出来たの。

だから私、今すごく幸せなの…」


千春さんが俺を見てにっこり笑う。


「感謝してる…。

長谷川君に会えたこと。

もう二度とここには来れないかと思っていたけど。

長谷川君が一緒だと大丈夫だったわ。

こうして後輩達を見ていても、ちっとも苦しくない。

頑張ってって、素直に思えるよ…」


「千春さん…」


「嬉しかった、今日…。

長谷川君が、初めてデートに誘ってくれたから。

昨日はなんだか興奮して眠れないし、準備に2時間もかけちゃった。

馬鹿だよねー、私」


恥ずかしそうに笑う千春さんに、胸の奥がチクンと痛んだ。


そんな千春さんに別れ話を切り出すなんて、あまりに残酷過ぎると思った。


結局その日はそのまま、何も告げることが出来ずに。


貴重な一日が、終わってしまった…。
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