凪とスウェル
「事故を起こした時に、俺はその彼女と別れました。

千春さんの大切な足を奪ってしまったから。

だから俺は千春さんのために、自分の一生を捧げて償おうと思いました。

千春さんに思いを告げられた時も、それに応えるべきだと思いました。

師匠にも認めていただいていたので、千春さんとこの店を継ぐ気でいました。

でも…」


「でも…?」


「俺はやっぱり、その女性が忘れられませんでした…」


そう言った途端、泣きそうになったけど。


ここで泣いちゃいけないと思って、上を向いて必死に涙をこらえた。


「本当に申し訳ないと思っています。

師匠も奥さんもこんなに信頼してくださっていたのに、それを裏切るようなことを言って。

でも。

こんな気持ちのまま、千春さんと一緒にはなれないですし。

そんな俺には、この店を継ぐ資格なんかないんです…」


師匠は頷きもせず、ただ俺の話に静かに耳を傾けていた。


一方的に話しているせいか、胸のドキドキが止まらない。


震える指をぎゅっと握りしめて、俺は師匠の言葉を待った。
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