凪とスウェル
「そうかぁ…」


そう呟いて、天井を仰ぐ師匠。


ゆっくり長い息を吐くと、俺の顔をじっと見つめてきた。


「隆治君はやっぱり…、償いをしていたんだね…」


「え…?」


意外なことを言われて、俺はパチパチと瞬きをした。


「キミの仕事に対する姿勢に、僕はすごく感心していたんだ。

勘もいいしね、この子は見込みがあると思っていた。

こんなに熱心に頑張ってくれるのだから、パン屋の仕事を気に入ってくれていると思っていたんだ。

だけど、本当はそうじゃなかった。

キミは、僕ら家族に償いをしていたんだ…」


「師匠…」


「そう思うと、なんだか胸が痛いよ。

この仕事を継いでいいなんて言って。

キミに足かせをしていただけだったんだね…」


師匠はなぜか悲しそうな顔をしていた。


「キミはいつも真剣に僕の話を聞いてくれたし、すごく教え甲斐があった。

キミと仕事をするのが、僕はすごく楽しかったんだよ。

僕はてっきり、キミも楽しんでくれているものだと思っていたんだ。

もちろん、楽しい部分もあったんだろうけど。

心の奥底では、苦しい思いもしていたんだね…」
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