恋に堕ちたら
「す、すいません。弁当持参なもんで」
数秒のタイムラグの後、私は言い訳めいた台詞を口にしていた。
って、事実なんだけど。
上司はそんな私の返事など物ともせず、「そう、残念」なんて軽くあしらい颯爽とフロアの中へ入っていった。
ーーふうー、疲れる。それよりなぜ私まで誘われたんだろ?
そんな疑問は残るが、とにかくこんなとこで立ち止まってる場合じゃあない。
私は足早にトイレに駆け込んだ。
お昼休み、宣言通り上司が佐藤さんをランチに誘う為佐藤さんの席に近付いてくる。
「佐藤くん、ランチどうかな?」
紳士的な態度で彼に近付き声を掛ける上司を横から眺めながら、佐藤さんの反応を伺った。
「あっ、はい」
佐藤さんのそんな返事を聞いた上司は、にっと笑いながら私の方に視線を投げる。
当然ながら目が合ってしまい慌てて目線を逸らした。
「蒼井も行くか?
あーあ、確か『弁当持参』だったっけか?」
意地悪く微笑みながら、『弁当持参』を強調した上司。
なんか本当に嫌味だよ。それ。