ときめきに死す
「本当に素敵。どうしてこの本を?」
挿絵にすっかり目を奪われている様子の縁は、本に視線を落としたまま問うた。
「前に、宮沢賢治が好きだって云ってたろう。なら、文庫や全集は揃えているだろうと思った。でも、この本は文章は文庫なんかと同じだけど絵本だから。この本なら、君は持っている確率はそう高くない。それになにより、」
不意に、縁が顔を上げた。
無垢な瞳が、私の顔を見上げている。
「この本は、君によく似合う」
縁は暫く惚けたように瞬きを繰り返していた。けれど幾度目かの瞬きのあと、長く黒々とした睫毛に縁取られた円らな瞳が、溢れんばかりに大きく見開かれる。白く滑らかな頬は、上気したように紅く染まった。薔薇色の唇が美しく弧を描く。艶やかなそれがうっすらと開いて、
「それはとても光栄だわ」
大人びた言葉とは裏腹に、彼女の顔は
いたいけな少女の満面の笑みだった。