ときめきに死す
「この本、頂くわ。お幾ら?」
「お代はいいよ」
ポシェットに手を掛ける縁を制し、私は云った。
「え、でも……悪いわ」
「未来の稀覯本のお礼だよ」
「だって、それは――」
「君が僕にあの本を贈ってくれたように、僕だって君に贈りたいんだ。プレゼントさせてくれないか、この本を」
『銀河鉄道の夜』。
幻想的な、美しい挿絵の一冊。
君に、似合いの。
「……わかった。ありがとう、加賀美くん」
困ったように眉を下げ、彼女ははにかむ。平素よりほんの少し大人の貌だった。
本を裸で持ち帰らせる訳にもいかないので、一旦縁から本を預かり、うちの紙袋を着せる。もっと気の利いた包装が出来ればいいのだけれど、生憎とお誂え向きのものはうちにはない。
屋号の印字された紙袋を着た本を、再び彼女に手渡す。
「ありがとう。大切にするわ」
彼女は、まるで宝物のように紙袋を抱き締めた。
それが無性に、なにものにも喩えようのないくらいに、嬉しかった。