ときめきに死す
かららん。
ドアベルが鳴ったきり、店内は痛いほどの静寂に支配された。一抹どころではない寂しさがここにはあるのだろう。
また会えると、解っていても。
そう云えば。
カウンターの内側にしまった蒼い『夜光虫』、まだ目を通していなかった。自ら買い求めたものは既に読了している。客の少ない店だ、どうせなら読み比べてみようと思い立ち、手を伸ばした。
装丁以外、目立った差違はないように思う。本文や書体、ノンブルのデザインに至るまで、黒い『夜光虫』と蒼い『夜光虫』は同一だった。
ページを繰り、中程まで読み進めた頃。
「あ、」
スピンの色が違う。
スピンは、本の背の上部に綴じ込まれたリボン状の栞である。その色が違うのだ。黒い『夜光虫』のスピンは、深い青色だった。それに対して、蒼い『夜光虫』のスピンは淡い青色だ。
装丁の意匠に合わせての合わせての配色だろう。デザイナーの拘りを感じる。
スピンを背表紙に送り、再び本文を読み進める。
二度目でも物語の世界に引き込まれる。圧倒的な筆力。分島の実力を思い知らされる。
時間が経つのも忘れて没頭した。気が付けば物語も終盤で、あと数ページを残すのみだった。一気に読んだ。相変わらず、お世辞にも爽快とは云えない読後感。しかしそれが私には心地よい。
本を閉じようとして、はたと気付く。
見返しに、うっすらと影が見えた。
一ページ捲る。すると、そこには。