ときめきに死す
どうして分島が私の名前を。
なんの関わりもないのに、親愛とは一体。
どういうことだ?
それに、この文字……
線の細く、美しい字体。
これは、女性の筆によるものではないのか。
不意に、彼女の言葉を思い出した。
――ちょっとの間、来られなくなるの。
――締め切りがね……。
締め切り、とは。
そして、彼女が再びこの店にやって来たのはきっかり三ヶ月後。
速筆で知られる分島なら、入稿から三ヶ月で製本から出版まで訳ない筈だ。
――わたしが特別なお得意様だから、かな。
著者には当然、その本は贈られただろう。
「…………まさか、な」
思い過ごしに違いない。
椅子に深く腰掛け直し、背凭れに身体を預ける。
天窓から、傾き掛けた陽光が注いでいる。
眩しさに一瞬、目が眩んだ。
(20140305)