ときめきに死す
少女はスカートの裾を揺らしながら私に駆け寄り、カウンターの前の椅子に腰掛けた。
古書の売買、商談に使う簡素な椅子も、縁に掛かれば高級なそれに見えてしまうから不思議だ。スカートをふんわり広げて座っている様はまさに精巧な人形のようである。
縁はカウンターに肘を突くと、手の甲にすっきりとした顎を乗せた。そして、私の顔、いや、目を上目遣いにじっと見つめた。潤んだ唇は綺麗な弧を描いている。なんだか不敵だ。
私は再度深く息を吐き、くいと眼鏡のブリッジを上げた。
「紅茶でいいかい」
「勿論」
「コンビニのロールケーキしかないけど、」
「構わないわ!」
縁は肘を突いたまま両手で頬を包んだ。浮かれている。そのうち鼻唄でも歌いだしそうな勢いだ。
少女の機嫌を損なう前に、私は流しへと向かった。