ときめきに死す
私は盆にティーカップとロールケーキを載せ、カウンターへと戻った。
縁はカウンターの前には居なかった。店内を見回すと、書架のすぐ脇で本を手に佇んでいた。小豆色の、分厚いハードカバー。タイトルはこの位置からは窺えない。装丁を見るに、古書ではなく新書である。
縁は表紙をひと撫でし、ふうと小さく息を溢した。物憂げな表情に、不覚にも胸が疼く。
不意に縁は顔を上げ、此方を見た。
滑らかな白い肌。薔薇色の唇。上下する睫毛。大きな瞳が煌めく。
本当に人形のような顔をしている。印画紙に焼けば有名なタブローにも見劣りしないだろう。
しかし、口を開けばやんちゃな――外見の年齢より遥かに幼い、子どもそのものだ。なのに、どうしてか指先の仕草だけは大人びている。
彼女は外界ではどのように振る舞っているのだろう。こうも傍若無人なのだろうか。私はいつも不思議に思っている。
「あら、お茶が入ったのね。ありがとう」
「あ、ああ……」
人形は人間の表情を浮かべ、本を書架に戻した。そして軽やかな足取りで駆けてくる。
椅子を引き腰を下ろした縁の前に、ティーカップと皿に移したロールケーキを置く。縁はフォークを私の手から奪い取るや、柔らかなスポンジに思い切り突き刺した。細切れにされたロールケーキは次々小さな口に運ばれ、質量を減らしていく。私は彼女の向かい、いつも腰掛けているせいでやけに草臥れた椅子に腰を預けると、紅茶に口を付けた。