ときめきに死す
私には紅茶の味はよくわからない。
熱く、ほんのり渋味のある香り高い液体。
ただ、縁と飲む紅茶は美味しいと思う。砂糖も入れていないのに、何故か甘く感じる。
カップの中の波紋をじっと眺めていると、視界がじわじわと曇り始めた。私は眼鏡を外すと、カーディガンの裾でレンズを拭った。
かちゃん。
目前で銀色のなにかが動いた。考えるまでもなく、それは縁の手の中のフォークだ。ぼやけた視界の中心で、少女が戦慄いた。
「か、加賀美くんって、」
「うん?」
縁の震える声に息を呑んだ。
沈黙が空間を支配する。
時計の秒針が厭に大きく聞こえる。
背中に冷や汗が滲み出す頃、縁はすうと息を吸った。そして、ひと言
「可愛い!」
と叫んだ。
暫く意味が分からず惚けていると、縁はずいと顔を近付けた。レンズなしでもピントが合うほどの距離。思わず大きく身を引いたが、ひんやりとした掌に両頬を思い切り掴まれ叶わなかった。
「加賀美くんって意外と若いのね。予想外だわ。三十路って云っていたからもっとおじさんだと思ってた」
「歳のことは云わないでくれないか、これでも気にしてるんだ」
「あら、どうして?」
「どうしてって……」
頭が痛い。
理由など、本人に云える筈がなかった。