ときめきに死す

 縁の手を振り払い、私は再び眼鏡を掛けた。
 レンズ越しにぷっくり頬を膨らませた縁が鮮明に見える。人形のような顔が、一気に人間らしくなる。

「と、とにかく、可愛いと云われても男は嬉しくないよ」
「まあ、最上級の褒め言葉なのに」
「女の子に対してはそうだろうけどね。少なくとも僕は喜ばないよ」
「なァんだ、そうなの」

 急に興味を失くしたように、縁はつまらなそうな顔をした。ロールケーキをぱくりと口に放り込み、むぐむぐと咀嚼する。こくん、と小さな喉が動いた。フォークを皿の縁に置くと、ティーカップを手に取り両手で支えながら口を付ける。
 一挙一動がいちいち絵になる。
 見惚れながら、つられて私も紅茶を啜った。

「加賀美くんはさぁ、」

 カップに口を付けたまま、縁は唐突に声を上げた。

「加賀美くんは、誰が好きなの?」

 本当に唐突だった。

「……は、」

 彼女の真意を測りかねていると、

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