らすとうぃっしゅ
私は店を出ると、楽譜の入った袋を抱きしめた。
人とまともな会話をしたのだって久々だったかもしれない。
学校にいるときだって誰とも話さないんだからしょうがない。
学校のことを考えるのはやめよう。気持ちが落ち着かない。
少し歩みを速めると、後ろから声が聞こえた。
「ねえ!!君!」
振り向くとさっきの青年が立っていた。
「…なに?」
「ははっ、そんな怖い顔しないでよ」
「なによ、もう」
「名前、教えてよ………………僕は、貴崎 秋斗(しゅうと)」
「な、え?」
「せっかく話せたから、仲良く…なりたいかな」
何て直球な申し込みだろうか。
でも、断る理由はなかった。
「赤山 雪ノ(ゆきの)」
私が名前を告げると、彼はにっこりと微笑み
「よろしく、赤山 雪ノさん」
手を差し伸べた。
私は恐る恐るその手をにぎった。
「あの店で、また会えるよね」
これが彼との不思議な関係の始まりだった。