【BL】意地っ張りな恋人くん
一体何やってるんだか。
こんなところまで来て、どうするつもりなんだ。
「……帰ろ。」
「――あら、ヒロくん?」
帰ろうと駅までの道を歩き始めたとき、後ろから声を掛けられた。
言い忘れていたが俺の名前は馬渕 博貴(マブチ ヒロキ)という。
名前を略してヒロと呼ぶのは家族と出海、あとは出海の家族だけだ。
呼ばれた声に振り向けば、買い物帰りと思われる出海の母親がにこやかに立っていた。
「どうもお久しぶりです。」
「本当ねぇ。すっかり大人っぽくなっちゃって。」
「そうですか?もう30近くまできちゃいましたからね。」
「もうそんな歳になるのね。ウチの子ったら、ずっと子供のままなのよぉ。少しはヒロくんを見習ってほしいわ。」
出海のお母さんは、昔から俺を気に入ってくれていた。明るく元気な人。
「あの子、よく遊びに行っているんでしょう?迷惑ばかり掛けてごめんなさいね。」
「いえ、そんな。ご飯や掃除をしてくれるんです。逆に助かってますよ。」
「あらあら、そうなの?あの子、家にいる時はそんなことしないのに。ヒロくんの前だと頑張るのね。」
ふふふ、と出海のお母さんは笑う。
「あの、出海くんは元気ですか?最近顔を見かけないので。」
「ええ、普通に元気だけど……そう言えば最近は家にいることが多いわね。もしかして喧嘩でもしたのかしら?」
「喧嘩というか何というか……」
「ああ、ほら、噂をすれば帰ってきたわよ。」
出海のお母さんの視線の先。
俺も同じ方向に目を向けた。