ワーキングガールズ・クリスマス
本当は、私の宙ぶらりんになったこの気持ちのことも考えてほしかった。


だけど専務や、専務の娘さんのことを考えたらとてもじゃないけど言えなくて。


課長の出世のカギにもなるだろう。婚約に水をさすような、まるで不倫相手に怒る女のようなことを言いたくなかった。


流れる涙もそのままに荒い息をし、睨むように見上げる私。


彼はそんな私をしばらくじっと見つめた後、おもむろに口を開いた。


「専務からの話は、言われたその日に断った」


「……は?」


突然の発言に耳を疑う。


「俺には他に愛する人がいる、だからできませんと言った」


「でも、娘さんの気持ちは……」


元々、彼女が課長を気に入ったことから話が持ち上がったと聞いている。


その先を言い淀んだ私に彼は呆れた声で言う。


「彼女には別に結婚したい相手がいたんだ。
どこでそんな話を聞いたんだお前は。

そんなもん噂に尾びれ背びれがついただけに決まってるだろ。だから全く問題はない。
なんならその相手の名前を言ってやろうか?
お前もよーく知ってるやつだよ」


そう言って告げられた名前は、確かに私もよく知る開発部の社員の名前で。


意外すぎてかえす言葉もなかった。


「そ、そうだったんだ…」


ぽつりと呟くと、岬課長は私の目尻に溜まっていた涙を拭いながら続ける。


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