やくたたずの恋
 雛子はほっとした様子で笑顔を見せた。それが夜の中で、柔らかな光となって浮かび上がる。
 まるで、春がそこに芽生えたようだ。敦也はそう思った。
 コブシに、菜の花、そして桜。薄荷色の空を抜ける、穏やかな南風。そんな春は、彼女を表すためにある。
 こんな女性とならば、楽しい人生が送れるかも知れない。そう思えば、ため息混じりに「残念だな」と口にしてしまう。
「君が恭平の結婚相手じゃなかったら、僕が君の結婚相手に立候補しているのに」
「そ、そんな!」
 雛子は桃の花に似た色で頬を染め、上目遣いになる。
「……お世辞でも、嬉しいです」
「お世辞じゃないよ。本気だよ、僕は。恭平だって心の奥では、君みたいな可愛い女の子が結婚相手だってことに、本当は喜んでいると思うよ」
「恭平さんは……私のことは、好きになれないんだと思います」
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