やくたたずの恋
「……何だ、ヒヨコか」
 リクライニングされた椅子から上体を起こし、髪を掻き上げる。眠たさの残る恭平の顔は、既にすり替わっていた。さっきまでの「優しく穏やか」バージョンは消え、いつもの「軽薄でスケベ、巨乳好き」のものになっている。
 彼の唇が濡らした、雛子の手の甲。それだけがまだ乾かずに、さっきの彼の名残を残していた。
 ……残念だったな。もう少し、さっきの寝ぼけた恭平さんを見ていたかったかも。
 雛子は小さく肩を竦め、緩みそうになる口元を無理矢理に引き締める。
< 141 / 464 >

この作品をシェア

pagetop