やくたたずの恋
「さっき、恭平さんが寝ぼけていたのか、何度もおっしゃったんです、『シホ』って。だから、何のことなんだろうなーって思って。もしかして……どなたかのお名前ですか?」
 数秒、無言の時が流れる。部屋の暗さの中に吸い込まれ、その時間が永遠のものになってしまいそうだった。
 その沈黙は、ライターの着火音と、その炎の明かりによって破られる。恭平はいつの間にか煙草を口に咥え、火を点けていた。
「……貧乳のクセに、しゃべり過ぎだぞ、お嬢ちゃん」
「そんなの、貧乳は関係ないじゃないですか!」
 静けさの中で、恭平の笑い声が響く。ククク、と喉を絞り上げて笑うと、再び椅子にもたれ掛かった。
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