やくたたずの恋
「敦也の実家は金持ちだしさ、あいつと結婚すれば、借金の返済を頼めるかもしれないぜ? その方が、俺と結婚するよりも手っ取り早い。その上、健全だ」
「私との結婚が、そんなに嫌なんですか?」
 雛子は咄嗟に、声を上げた。
 偽物だと思って盗まなかった宝石が、実は本物だった。そんなドジでうっかり屋な泥棒を、雛子は笑うことはできない。恭平の発言の真意を理解するのに、時間がかかってしまったからだ。恭平の真剣さに気づけなかったのだ。
 恭平は本気で、自分に敦也との結婚を勧めている――その事実に気づいてしまえば、雛子の口からは、溜まっていた思いが溢れ出す。
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