やくたたずの恋
「私は、恭平さんと結婚できたら、それで十分なんです」
 何の意味も持たない、無機物としての言葉。それが、自分の口から出たとは思えなかった。遠い宇宙から届いた、通信文に近い。
 ワレワレハ、ウチュウジンダ。ワタシハ、キョウヘイサントケッコンデキレバイイ。
 気づけば、手の甲にあったはずの恭平のキスの跡は、乾いて消え去っていた。
「服を脱げ」
 小さな声が、恭平の喉から響く。
 フクヲヌゲ。宇宙との交信が、まだ続いているのかと思った。意味の理解できない言葉に、雛子は恭平の顔をまじまじと見る。
 宇宙人でもない、さっきの優しげな恭平でもない。その上、いつもの「怪獣キョニュウスキー」な恭平でもない男が、そこにはいた。それは、色のない炎を抱えた、憎しみを露わにしている男だ。
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