やくたたずの恋

「女はな、好きな男と結婚するべきなんだよ」
　恭平のその声は、沖へと吹く風に似ていた。大きく帆を上げた船を、大海へと力強く押し出す、励ましの風だ。
「好きにもなれない俺と結婚するために、『好きになってくれなくてもいい』なんて言うな。親にとっての、都合のいい道具になってはダメだ。自分の幸せは、自分で掴め」
　暗闇でともしびを灯すように、恭平は微笑み、雛子の頭を何度も撫でた。髪が擦れ、彼の掌の熱がじん、と伝わってくる。そのうちに雛子の涙は止み、落ち着きを取り戻していた。
　目の前にいる恭平は、親友や恋人に対する親愛の笑顔を見せている。敦也が言っていた「優しい」という恭平の姿は、これなのかも知れない。雛子はそう思い、彼に応えるように泣きはらした目を細めた。