やくたたずの恋
このココアもそうだが、母の作る食べ物は、なぜか優しい味がするのだ。一口食べただけで、その日の辛い出来事も全て消化できてしまうような、不思議な味わいがあった。
それは母の性格によるものだろう、と雛子は思っていた。母はいつだって、優しくしなやかだった。あの恐ろしい父と結婚し、「役立たず」と言われ続けながらも、父を恨むこともなく、卑屈になることもない。
母はいわゆる「政略結婚」で、父と結婚したと聞いていた。当時、父の選挙区で後援会長をしていたのが母の父――つまり雛子の母方の祖父で、「山林王」とまで呼ばれた地元の名士だった。その娘であった母が、半ば強制的に父と結婚させられたのだと。
それは母の性格によるものだろう、と雛子は思っていた。母はいつだって、優しくしなやかだった。あの恐ろしい父と結婚し、「役立たず」と言われ続けながらも、父を恨むこともなく、卑屈になることもない。
母はいわゆる「政略結婚」で、父と結婚したと聞いていた。当時、父の選挙区で後援会長をしていたのが母の父――つまり雛子の母方の祖父で、「山林王」とまで呼ばれた地元の名士だった。その娘であった母が、半ば強制的に父と結婚させられたのだと。