やくたたずの恋
 わざとらしく驚いた素振りを見せ、恭平は突然、拍手をした。
「いやぁ、お見事だよ! 何でもかんでも父親の言いなりなんて、さすがは政治家一家に育ったお嬢さんだ!」
 どうしてここまで言われなくてはならないのか。この男とは初対面であり、しかも結婚相手(仮)なのに。
 雛子は唇を震わせ、俯いた。涙がぽとりとコンクリートの通路に落ち、悲しげなシミを作っていく。
「あなたが私を、どう思っても構いません。だけど、私はあなたと結婚したいんです」
 嘘だ。本当は、こんな酷い男となんて結婚したくない。でも、父から言いつけられた任務なのだから。そんな思いがぐるぐると巡る中、恭平の声が聞こえてきた。
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