やくたたずの恋
 昨日の夜、それはちょうど、雛子が事務所を立ち去った後だった。敦也が恭平へと電話をかけてきたのだ。雛子を「春のような子だ」と評し、興奮気味に彼女の魅力について語っていた。彼女と一緒にいると、あたたかな春の中で過ごしている気分になる、と。
 恭平もそんな彼女に惹かれない訳ではない。このあたたかさは、かつて志帆も持っていたものだ。だからこそ、求め焦がれるのかも知れない。
 ならば尚更、近づいてはいけないだろう。雛子は雛子であって、志帆ではない。
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