やくたたずの恋
 それでも、何とか耐えられているのは、恭平との約束のためだ。
 どんな客に当たっても、文句は言わない。そう誓ったのだから、絶対にここで負ける訳にはいかなかった。
 ちゃんと仕事をして、恭平に認めてもらわなくては、彼が雛子に優しくしてくれるはずもない。そして、自分が恭平を好きになることもできないだろう。
 ここは、耐えるんだ! 耐えなくてはダメなのよ、雛子!
 自分で自分を励ましつつ、雛子はきりりとした表情を湛えた。
 修行中の忍者のように、厳しい修行に耐えつつも何かを得ようと、心の中の手裏剣を握り締める。そして水遁の術を実践するかのように、出されたお茶を啜った。
 ……に、苦い。何なの、これ!
 お茶だと思って飲み込んだ液体は、牧草を煮出した味のするものだった。雛子は顔を顰めながら、茶碗の中を覗き込む。そこには、緑系の絵の具をでたらめに混ぜ合わせた色の液体が入っていた。
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