やくたたずの恋
 だが、香りは悪くない。おそらく、これは高い茶葉を使っているはずだ。本来はふんわりした味を楽しむためのお茶なのだろうが、淹れ方のせいで、牧草地帯で牛がモウモウと鳴く味わいになっている。
 お茶を淹れるのが得意な雛子の母も、「高級な茶葉は、気むずかしいのよ」とよく語っていた。「湯加減や蒸らし時間の微妙なズレが、不味さに繋がってしまうの。本当に気むずかしいったらないの」と。
 気むずかしい茶葉。そうだ。それは、この沢田様みたいなものだ。
 人の気持ちも考えず、ただ黙ったままで何時間も付き合わせるなんて、気むずかしいどころの話ではないけれど。
 雛子はまた一口、お茶を啜った。不味い。何とかもう一口。……不味い。ああ、不味いよ……。口の中に牧草地帯が広がり、2、3頭しかいなかったはずの牛が10頭ほどに増え始めている。
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