やくたたずの恋
「あ、そうそう! 沢田様は、早くに奥様を亡くされたとおっしゃってました! 美人だった奥様に似ている女性を探したくって、『Office Camellia』からいつも女性を派遣してもらっていたそうなんです。でも、なかなか似ている人がいなくって、残念な気持ちから、口を閉ざしてしまっていたそうなんです」
「ちょ、ちょっとお嬢ちゃん! あなた、沢田様とそんな話までしたの?」
「はい、そうですけど……悦子さんはご存じなかったんですか?」
「知らないわよ! だって沢田様って、とにかく無口で有名だし……。影山ちゃんだって、知らなかったでしょ?」
 悦子の問いに、横にいる恭平がこくんと頷く。咥えた煙草の先からは、赤い火がジリジリと彼に迫ってきていた。彼の中の、焦りの気持ちと一緒になって。
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