やくたたずの恋
「じゃあ、お嬢ちゃんは、その奥様にそっくりだった、ってことなのかしら?」
「いいえ。私は奥様には似ていないらしいのですが、私が淹れたお茶の味が、奥様が淹れたものと同じなんだそうなんです。沢田様は、私の淹れたお茶を『懐かしい味だ』と、喜んで飲んでくださいました!」
 ぬるめのお湯で、とにかく焦らず、ゆっくりと。母が教えてくれた淹れ方でお茶を出したところ、沢田老人は突然上機嫌になったのだ。
 雛子にとって、それは嬉しい瞬間だった。雛子が母のお茶に励まされてきたように、自分もお茶で沢田を元気づけることができた。自分が「役立たず」ではないと思えた、大切な経験だったのだ。
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