やくたたずの恋
「いずれ大臣になると噂されてる横田議員との繋がりができるなら、数億円の借金の肩代わりなんて安いもんだ。それが雛子ちゃんと結婚する条件だと言うなら、喜んで引き受けるよ」
「止めておけよ、そんな結婚は」
 呆れたように、恭平はため息をつく。一緒に吐き出された煙が広がり、その中で敦也が、ははは、と乾いた笑い声を上げた。
「雛子ちゃんを拒絶してるお前に、止める権利なんてないだろう? それとも、嫌なのか? 僕が雛子ちゃんと結婚するのが」
 煙が薄れ、敦也の姿がはっきりと見えてくる。彼の顔には、いつもの甘いフレーバーは見られない。代わりに、恭平を刺激しようとする、唐辛子の辛さを含んでいた。
「彼女、そっくりだもんな。昔の志帆ちゃんに。顔はそんなに似てないけど、雰囲気や境遇はそのまんまだ」
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