やくたたずの恋
 口調はきつくはない。なのにその敦也の言葉には、彼の今の表情と同じ、辛辣さが含まれていた。
 そして、それに反応してしまうのは、恭平の中に傷がまだ残っているせいだ。塞がることのない真っ赤な傷口に、敦也の言葉が刺激物を塗り込んでいく。
 恭平はその痛みに耐えながら、「違うんだ」と呟いた。
「俺はそういう結婚が嫌だってだけだ。借金のカタだとか、コネ作りだとか、親の言いなりだとか、そんなもののためにするモンじゃねぇだろ、結婚ってのは」
「それは……誰のことを言ってるんだ? 僕と雛子ちゃんのこと? それとも志帆ちゃんのこと?」
 腹の立つ質問だ。恭平は苛立ちをそのまま煙にして吐き、敦也を睨みつけた。
「どっちでもねぇよ。一般論だ」
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