やくたたずの恋

     * * *


「いやぁ、可愛いなぁ! いつもの女の子たちとタイプは違うけれど、君も可愛いねぇ!」
 雛子に会った瞬間、湯川という男は、ぐにゃりと音を立てて口元を緩めた。黄金虫のようにてらてらと光る、脂ぎった顔。それが近づけば、雛子は顔を引き攣らせて仰け反ってしまう。
「そんなウブな感じも可愛いなぁ! もしかして、バージンなのかなぁ?」
 高級なフレンチレストランでのパーティーに似合わない声で、湯川は笑う。ひゃひゃひゃ、と下品に。会場に集まった他の客たちは、顰めた顔を露骨に湯川へと向けていた。
 湯川は40代半ばの男で、中堅の建築業者の社長をしている。結婚しているくせに、パーティーに参加するためのパートナーを『Office Camellia』でレンタルするので有名な男らしい。
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